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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)4478号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人河野智達の上告趣意第一点について。

記録によれば、第一審判決は、被告人に対する起訴状記載の第一の(一)ないし(五)の各収賄の公訴事実中(三)の所為(被告人が昭和二七年五月下旬頃渡辺学から金八万円を職務に関して収受したとの点、被告人が公判廷において金員の授受自体もその趣旨をも争っていたもの)については、犯罪の証明が十分でないとして主文において無罪を言い渡したところ、右は事実を誤認したものであるとして検察官から控訴の申立があり、原審は右控訴趣意を容れて第一審判決を破棄し、右金員授受の点につきなんら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠である被告人の検察官に対する第二回供述調書、渡辺学の検察官に対する第二、三回供述調書、天野治郎の検察官に対する供述調書、一審証人小野寺義夫の供述及び被告人の職務関係の事実のみを綜合して、被告人と渡辺学との間に金八万円の授受のあった事実を確定し有罪の判断をしたものであることがわかる。(尤も、被告人の職務権限に関しては原審において事実の取調が行われているけれども、事件の核心をなす右金員の授受自体については、何ら事実の取調が行われていない。)かように、第一審が起訴にかかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして、被告人に対し無罪を言い渡したばあいに、控訴審が右判決は事実を誤認したものとしてこれを破棄し、自ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによって直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をするのは刑訴四〇〇条但書の許さないところであることは、当裁判所大法廷判決(昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡、昭和二七年(あ)第五八七七号同三一年九月二六日言渡)の示すところである。(なお、昭和三〇年(あ)第四五六号、同三二年一二月二七日第二小法廷判決、昭和三一年(あ)第一七六一号同三四年二月一三日第二小法廷判決各参照)

よって、その余の上告趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴四一一条一号、四一三条により原判決を破棄して本件を原裁判所である札幌高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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